建設業許可を取得して何年も経つと、許可があるのが当たり前になってしまい「許可を取得するために必要な要件」や「許可を維持するために必要な要件」はつい見落としがちになります。
建設業許可を取得・維持するには「経営業務管理責任者」や「専任技術者」といった要件が必須になりますが、転職や時には転勤、また個人的な事情で退職してしまうといった状況になる場合があります。
事前に上記のような意向がわかっていれば、後任を決める余裕がありますが、突然の退職等で後任の当てがいない…なんてこともあり得ます。1日でも「経営業務責任者」と「専任技術者」がいない期間がある場合は建設業許可は“取消”という非常事態になります。
取消になった場合、現在着工中の工事に関しては完工まで行うことが可能とされていますが、今後500万以上の工事の請負ができなくなります。
また、建設業法第八章第五十条より、『変更届を提出しない、虚偽の記載をして申請した場合は6ヶ月以下の懲役または100万以下の罰金に処する。』と記載されています。これに該当した場合、結果的に欠格要件にも該当することになりますので建設業許可を失うだけではなく、今後再度取得することも難しくなります。
弊所で実際にご相談に来られたお客様の事例
会社設立をして年20年以上、とび・土工の建設業許可を取得をして2年目。現在、経営業務管理責任者と専任技術者を兼務している取締役Tが辞め、取締役Hに交代したいと思っている。しかし、Tはとび・土工1級技能士の資格を取得していた為、専任技術者として要件を満たしていた。しかし、調べると今在籍している従業員では資格を取得している人はいない。こういった場合、建設業許可は取り下げなくはならいのでしょうか。とのことでした。
では、今回のご相談の内容を整理しながら回答していきます。
初めに経営業務管理責任者の要件から見ていきます。
経営業務管理責任者の要件
- 建設業に関し5年以上、経営業務の管理責任者としての経験を有する者
- 建設業に関し5年以上、経営業務を執行する権限の委任を受け、経営業務の管理責任者に準ずる地位で経営業務を管理した経験を有する者
- 建設業に関し6年以上、経営業務の管理責任者に準ずる地位にあり、経営業務の管理責任者を補佐する業務に従事した経験がある者
- 常勤役員等のうち1人が以下のいずれか(イ、ロ)に該当する者であって、かつ、1~3に該当するものを当該常勤役員等を直接補佐する者としてそれぞれ置くものであること
【常勤役員等】
イ、 建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有し、かつ、5年以上役員等又は役員
等に次ぐ職制上の地位にある者としての経験を有する者 (財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る。)
ロ、5年以上役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有する者
【直接に補佐する者(当該建設業者においての5年以上の建設業の業務経験に限る)】
1 財務管理の業務経験を有する者
2 労務管理の業務経験を有する者
3 業務運営の業務経験を有する者
1~3は一人が複数の経験を兼ねることができます。
- 常勤とは
原則として本社、本店等において休日を除き、毎日その職務に従事していることをいいます。
以上、これらが経営業務管理責任者としての要件になります。
今回のご相談された会社は、法人ですので、常勤役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者)が上記の①〜④いずれかに当てはならなければなりません。また、今回交代する予定のH様は①に該当しましたので、経営業務管理者としての要件は満たします。
提出書類
1 常勤役員等(経営業務の管理責任者等)の経験を確認する資料
(1点の資料で確認できない場合は、複数の書類が必要)
・5年以上の役員就任が確認できる登記事項証明書
・確定申告書
・工事請負契約書等の建設工事の受注を確認できる書類
2 常勤役員等(経営業務の管理責任者等)に準ずる地位、又は常勤役員等を補佐する業務に従事した 経験を確認する資料
(1点の資料で確認できない場合は、複数の書類が必要)
・経営業務の管理責任者に準ずる地位にあったことを確認できる組織図やこれに準ずるもの
・事務分掌規程
・人事発令書、辞令書、これらに準ずるもの
・稟議書等、被証明者が意思決定に関与していたことを証するもの
・取締役会の議事録
・確定申告書(個人事業主のみ)
3 常勤を確認する資料(以下のいずれか1点)
・健康保険証
・当該営業所における直近3カ月分の出勤簿
・辞令書等、当該営業所に勤務していることがわかるもの
・健康保険・厚生年金保険資格取得確認および標準報酬決定通知書
・雇用保険被保険者証
常勤役員等が70歳以上の場合(以下のいずれか1点)
厚生年金保険70歳以上被用者標準報酬月額相当額決定のお知らせ
厚生年金保険70歳以上被用者算定基礎届(受付印に押印があるもの)
住民税特別徴収税額決定通知書(特別徴収義務者用)
4.社会保険の確認書類
健康保険、厚生年金保険は、以下のいずれか1点
・申請時直前の保険料の納入に係る「領収証書又は納入証明書」
・標準報酬決定通知書
・被保険者資格取得確認及び標準報酬決定通知
雇用保険は、以下のいずれか1点
・申請時直前の「労働保険概算・確定保険料申告書」の控え及び保険料の「領収済通知書」
・雇用保険資格取得等確認通知書、被保険者証
今回の場合は1番の5年以上の役員就任が確認できる登記事項証明書(会社謄本)と、常勤性を証明するための健康保険証が必要書類となります。
また、その他に様式に沿った略歴書の提出も必要になります。
経営業務管理責任者の要件が満たされましたので、次は専任の技術者の要件を見ていきます。
専任技術者の要件
在籍している従業員の中で国家資格を取得している従業員がいれば、その従業員が専任の技術者としての要件を満たしますので、一番早い話ですが、今回の場合、国家資格所有者はいないとのことでした。そうなってくると、実務経験での取得になります。実務経験は2つのパターンがあります。
- 指定学科の卒業 + 3~5年の実務経験者
- 10年の実務経験者
では、1つめから見ていきましょう。
国家資格がなかったとしても、「土木工学・都市工学・衛生工学」といった特殊な学科(指定学科)を卒業して、実務経験が3~5年以上ある方がいれば、要件を満たすことになります。
2つ目を見ていくと、専任技術者になれるのは「国家資格者」や「特殊な学科を卒業している人」だけではありません。「国家資格」や「特殊な学科の卒業経歴」がなかったとしても「10年の実務経験」を証明できれば、専任技術者になることができます。
つまり、「新たな国家資格所有者を雇う」または「国家資格を取得する」といったことをしなくても、10年以上前から勤務している社員の経験を使うことによって「10年の実務経験」を証明することができます。
しかし、いざ申請するとしても「10年の実務経験」を証明するための書類が大切になってきます。
証明する書類として新潟県は
・直近5年分の請け負った工事1件についての請負契約書や注文書
(1件/年 × 5年=5件分必要)
・実務経験証明書(証明者が必要になります)
上記の提出が必要とされています。
注意するべき点
□実務経験にカウントできるのは、常勤で働いていた期間のみです。
□実務経験は複数の勤務先での期間を合算してカウントできます。A社での経験、B社での経験、個人事業主として経験の年数をあわせて10年以上あれば認められます。
□10年で証明できるのは1業種のみとされています。
証明者の証明を得ることができない場合
証明者(以前在籍していた会社)が倒産等のため証明できない場合は、「使用者の証明を得ることができない場合はその理由」の欄に「廃業している為」等の理由を記載し、自己証明でも申請は可能です。
※注意※
工事内容については、正確に覚えているものを記入してください。
虚偽の内容では建設業許可は通りません。
確認をされることももちろんあるので、虚偽の内容は当然のことですが、絶対に記載しないでください。
職名は、現場施工管理者、事業主、従業員、工事主任、工事課長、取締役等、実務経験を積んだ際の職名を記入します。
まとめ
今回のご相談内容の回答をまとめると、建設業に関し5年以上、経営業務の管理責任者としての経験があり、さらには実務経験10年以上があるとして交代するH様が経営業務管理責任者と専任技術者として要件を満たしますので、変更届を提出することになります。
専任技術者の変更申請費用
事前相談、書類作成、申請までが含まれます。
選任技術者の変更手続き業務の料金
当事務所報酬 33,000円(税込み) + 実費
ご面談後に正式なお見積りを出させて頂きます。