「社長が2社の代表取締役を兼任しています。建設業許可は取得できますか?」
建設業者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。
会社経営をしていると、
- 親会社と子会社の代表を兼任する
- グループ会社の代表を兼任する
- 事業承継の過程で2社の代表を一時的に兼任する
- 会社を買収して、既存会社の社長が新会社の代表にも就任する
といったケースがあります。
では、代表取締役を2社兼任している場合、建設業許可を取得することはできるのでしょうか。
結論からいうと、2社の代表取締役を兼任していることだけを理由に、建設業許可が取得できなくなるわけではありません。
ただし、建設業許可では「常勤性」が重要になるため、2社で本当に常勤しているといえるのかという点が問題になります。
特に、その社長を経営業務の管理責任者(経管)や専任技術者(専技)として配置する場合には、慎重な確認が必要です。
1.2社の代表取締役を兼任すること自体は可能
まず、会社法上、
「1人の人が2つの会社の代表取締役になること」
自体は禁止されていません。
例えば、
A株式会社 代表取締役
B株式会社 代表取締役
という状態にすることは可能です。
したがって、
「2社の代表取締役を兼任している=建設業許可を取得できない」
ということではありません。
問題になるのは、建設業許可の要件を満たすために、その人がどの会社でどのように勤務しているのかという点です。
2.特に問題になるのが「経営業務の管理責任者」
建設業許可では、経営業務の管理を適正に行うための体制が求められます。
いわゆる「経営業務の管理責任者(経管)」についても、常勤性が重要になります。
例えば、
A社:建設業を営んでいる
B社:別事業を営んでいる
そして、社長がA社とB社の代表取締役を兼任している場合。
「A社の経管として登録できるのか?」
という問題が生じます。
この場合、
A社で実際に常勤して経営業務に従事しているのか
が重要になります。
3.「代表取締役だから常勤」とは限らない
ここは非常に重要です。
会社の登記簿に代表取締役として記載されていることと、建設業許可上の「常勤性」が認められることは同じではありません。
例えば、
「A社とB社の代表取締役だが、普段はB社に勤務しており、A社には月に数回しか来ない」
という状態であれば、A社の経管としての常勤性について問題になる可能性があります。
一方で、
「A社を主たる勤務先として毎日勤務し、B社については経営上必要な範囲で代表者として対応している」
というようなケースでは、事情が異なります。
つまり、
登記上の肩書きではなく、実際の勤務実態が重要
ということです。
4.「2社とも常勤」は原則として慎重に考える
では、
「A社でも常勤、B社でも常勤です」
という説明なら問題ないのでしょうか。
ここも注意が必要です。
常勤とは、基本的にはその会社で通常の勤務時間を継続的に勤務している状態を意味します。
そのため、1人の人が2社それぞれで常勤しているという場合には、
「実際にどのように勤務時間を分けているのか」
という点について合理的な説明が必要になります。
単に、
「午前中はA社、午後はB社です」
とすれば当然に認められる、というものではありません。
それぞれの会社の所在地、勤務時間、業務内容、会社間の関係などを含めて、実態を確認する必要があります。
5.親会社と子会社なら大丈夫?
よくあるのが、
「親会社と子会社なので、社長が両方の代表を兼任しています」
というケースです。
例えば、
親会社A社
↓
子会社B社
という関係で、社長がA社とB社の代表取締役を兼任している場合です。
親子会社だからといって、直ちに問題になるわけではありません。
しかし、
「親会社と子会社だから常勤性の問題はない」
ということでもありません。
あくまで、
- どこで勤務しているのか
- どの会社の業務にどれだけ従事しているのか
- 勤務時間はどうなっているのか
- 他社で常勤していないか
- 経管として実際に経営業務を行っているか
などを確認する必要があります。
6.「経管+専技」を2社で兼任するのは?
さらに注意が必要なのが、社長が、
A社:経管+専技
B社:経管+専技
という形で、2社の建設業許可について同時に配置されるケースです。
この場合は、より慎重な判断が必要です。
なぜなら、
- 経管には常勤性
- 専技には営業所への専任性
が求められるからです。
一人の人が2社それぞれで常勤・専任しているという状態を、実際の勤務状況から合理的に説明できる必要があります。
したがって、
「社長が2社の代表だから、両方の経管・専技になれる」
と簡単に判断することはできません。
7.専任技術者の場合はさらに注意
専任技術者については、「専任」という言葉が示すとおり、営業所に専任していることが必要です。
例えば、
A社の営業所:新潟市
B社の営業所:長岡市
で、同じ社長が両社の専任技術者になるというケース。
「車ですぐ移動できるから大丈夫」
という単純な話ではありません。
それぞれの営業所について、本当に専任しているといえる勤務実態があるのかを確認する必要があります。
特に、複数会社の代表者を兼任している場合には、専任性の説明が難しくなることがあります。

8.社会保険はどちらの会社に入る?
2社の代表取締役を兼任している場合、社会保険の取扱いも問題になることがあります。
例えば、
A社とB社の両方から役員報酬を受けている
というケースです。
この場合、社会保険の取扱いについては、単純に「どちらか一社だけ」という話ではなく、複数の事業所で勤務する役員等についての社会保険上の手続が関係してきます。
ただし、
社会保険の加入状況だけで建設業許可上の常勤性が決まるわけではありません。
建設業許可では、社会保険の状況だけでなく、実際の勤務実態などを総合的に確認することが重要です。
9.建設業を営んでいない会社との兼任ならどうか?
例えば、
A社:建設業
B社:不動産業
という2社の代表を一人が兼任しているケースです。
この場合、
「B社は建設業ではないから問題ない」
と考えてしまう方もいます。
しかし、そうとも限りません。
建設業許可で重要なのは、A社で常勤しているといえるかどうかです。
B社で代表取締役として実際にどの程度業務に従事しているのかによっては、A社での常勤性が問題になる可能性があります。
つまり、
「もう一社が建設業かどうか」だけでは判断できません。
10.2社を兼任する場合に重要な資料
2社の代表取締役を兼任している人を経管や専技として配置する場合には、通常のケース以上に勤務実態を説明できる資料が重要になります。
例えば、
- 各会社の登記事項証明書
- 出勤状況が分かる資料
- 社会保険関係書類
- 給与・役員報酬関係資料
- 会社間の関係が分かる資料
- 業務分担が分かる資料
- 勤務場所が分かる資料
- その他、実際の勤務状況を確認できる資料
などです。
ただし、必要書類や確認方法は自治体によって異なる場合があります。
そのため、申請前に所管行政庁へ確認しておくことをおすすめします。
11.事業承継では「一時的な2社代表」に注意
最近では、事業承継の過程で一時的に2社の代表取締役を兼任するケースもあります。
例えば、
旧会社の社長Aさん
↓
新会社の社長にもAさんが就任
↓
一定期間後に後継者Bさんへ事業承継
というケースです。
このような場合、Aさんが2社の建設業許可に関係する経管や専技になっていると、許可要件について注意が必要です。
事業承継をする際には、
「代表取締役を誰にするか」だけではなく、「建設業許可の経管・専技を誰にするのか」
まで一緒に考えることが重要です。
12.「2社経営」そのものが問題なのではない
ここまでの話をまとめると、
2社の代表取締役を兼任すること自体が問題なのではありません。
問題となるのは、
建設業許可の要件を満たすだけの常勤性・専任性があるか
ということです。
したがって、
「2社の代表だから建設業許可は取れない」
というのも間違いですし、
「2社の代表でも問題なく経管・専技になれる」
と決めつけるのも危険です。
重要なのは、個別の勤務実態を確認することです。
まとめ
社長が2社の代表取締役を兼任している場合でも、それだけを理由に建設業許可を取得できなくなるわけではありません。
しかし、その社長を経営業務の管理責任者や専任技術者として配置する場合には、特に注意が必要です。
確認すべきポイントは、
- どの会社で実際に勤務しているか
- 勤務時間はどうなっているか
- 他社で常勤していないか
- 経管として必要な経営経験があるか
- 専技として必要な資格・実務経験があるか
- 営業所に専任しているといえるか
- 2社の所在地・業務内容はどうなっているか
- 親会社・子会社などの関係があるか
- 出向などの関係があるか
といった点です。
特に、
「2社の代表取締役を兼任している社長を、両社の経管・専技にしたい」
というケースは、書類だけで判断せず、実際の勤務実態を整理することが重要です。
建設業許可では、**「登記上どうなっているか」だけでなく、「実際にどう働いているか」**が重要になります。
2社の代表を兼任する場合には、許可申請の直前に検討するのではなく、役員就任や事業承継の段階から、建設業許可への影響を確認しておくことをおすすめします。




