建設業許可を取得している会社では、経営業務の管理を適正に行うための体制を整えていることが必要です。
その中心となるのが、一般的に「経営業務管理責任者(経管)」と呼ばれる常勤役員等です。
ところが、経営業務管理責任者を務めている代表取締役が突然亡くなった場合、建設業許可はどうなるのでしょうか。
「社長が亡くなった場合、建設業許可は取り消されてしまうのか」
「新しい代表取締役が経営業務管理責任者になれるのか」
「変更届はいつまでに提出しなければならないのか」
このようなご相談をいただくことがあります。
経営業務管理責任者は建設業許可を維持するための重要な要件の一つです。そのため、死亡や退職によって要件を満たさなくなった場合には、早急な対応が必要になります。
今回は、実際に当事務所へご相談いただいた事例をもとに、経営業務管理責任者が死亡した場合の手続きや注意点について解説します。
1.【ご相談事例】建設会社の代表取締役が突然亡くなった
ある建設会社様から、次のようなご相談をいただきました。
「代表取締役が亡くなったため、建設業許可や会社の役員変更など、必要な手続きをお願いしたい」
亡くなられた代表取締役は、建設業許可における経営業務管理責任者(常勤役員等)を務めていました。
会社の状況は次のとおりです。
- 代表取締役が死亡
- 亡くなった代表取締役が経営業務管理責任者を兼任
- 後任の代表取締役には、取締役として15年間勤務しているAさんが就任予定
- Aさんは従来から常勤役員として勤務
- 新たに取締役2名が就任予定
- 新任取締役のうち1名は県外在住の非常勤役員
- 建設業許可のほかに産業廃棄物収集運搬業の許可も保有
今回のケースで最も重要だったのは、亡くなった代表取締役に代わって、経営業務管理責任者の要件を満たす人がいるかどうかという点でした。
幸いにも、この会社には取締役として15年間の経験があるAさんがいました。
Aさんが必要な常勤性や経営経験などの要件を満たしていれば、経営業務管理責任者を変更することで、建設業許可を継続できる可能性があります。
ただし、後任者がいるからといって、何もしなくても許可が維持されるわけではありません。
必要な変更届を期限内に提出することが重要です。
2.経営業務管理責任者が死亡した場合、建設業許可はどうなる?
建設業許可では、許可取得時だけでなく、許可を受けた後も継続して許可要件を満たしている必要があります。
そのため、経営業務管理責任者が死亡した場合には、まず後任者の有無を確認しなければなりません。
後任者がいる場合
死亡時点で、別の常勤役員が経営業務管理責任者の要件を満たしている場合には、その役員を後任者として届け出ることが考えられます。
今回のご相談では、15年間取締役を務めているAさんがいたため、後任の経営業務管理責任者となることができるかを確認しました。
ここで注意したいのは、新しい代表取締役と経営業務管理責任者は、必ずしも同一人物である必要はないということです。
代表取締役でなくても、必要な要件を満たす常勤役員であれば、経営業務管理責任者になることができます。
後任者がいない場合
一方、後任となる役員がいない場合には注意が必要です。
経営業務管理責任者の要件を満たす体制がなくなってしまうと、建設業許可を維持できなくなる可能性があります。
建設業法では、許可要件を欠くに至った場合、許可の取消しの対象となります。
そのため、経営業務管理責任者が死亡してから新しい役員を探せばよいという考え方は危険です。
後任者が必要な要件を満たしているか、事前に確認しておくことが大切です。
3.経営業務管理責任者の変更届は2週間以内
経営業務管理責任者(常勤役員等)を変更した場合、原則として変更事由が生じてから2週間以内に変更届を提出する必要があります。
今回のように、経営業務管理責任者が死亡した場合も同様です。
この期限は、死亡した代表取締役の葬儀や相続手続き、会社の後任人事などで慌ただしい時期であっても、原則として変わりません。
そのため、代表取締役が亡くなった場合には、会社の登記手続きだけでなく、建設業許可の変更手続きについても速やかに確認する必要があります。
役員変更登記が完了していない場合は?
法人の役員に変更があった場合には、法務局で役員変更登記を行います。
しかし、役員変更登記には一定の時間がかかることがあります。
また、登記申請中は、原則として変更後の登記事項証明書を取得することができません。
一方、建設業許可の変更届には2週間という期限があります。
そのため、登記が完了するまで待っていると、変更届の提出期限に間に合わない可能性があります。
このような場合には、許可行政庁に事前相談することが重要です。
許可行政庁によっては、登記申請中であることを説明し、必要な資料の取扱いや後日提出について相談できる場合があります。
ただし、登記が終わっていないことを理由に、当然に届出期限が延長されるわけではありません。
登記完了を待つのではなく、早い段階で許可行政庁に確認することをお勧めします。
4.経営業務管理責任者の後任者になるための要件
経営業務管理責任者は、誰でもなることができるわけではありません。
建設業の経営に関する一定の経験などが必要です。
① 建設業に関する5年以上の経営経験
代表的な要件の一つが、建設業に関して5年以上、経営業務の管理責任者としての経験を有していることです。
例えば、次のような経験が該当する可能性があります。
- 建設会社の取締役としての経験
- 建設会社の代表取締役としての経験
- 建設業を営む個人事業主としての経験
また、必ずしも同じ会社で5年間の経験が必要というわけではありません。
複数の建設会社での役員経験を通算できる場合や、個人事業主としての経験と法人役員としての経験を通算できる場合もあります。
ただし、単に登記上の役員であっただけで認められるとは限らず、建設業に関する経営経験の内容や証明資料を確認する必要があります。
② 常勤性が必要
経営業務管理責任者となる常勤役員等には、原則として常勤性が求められます。
そのため、他社で常勤勤務している方や、実際には会社の経営にほとんど関与していない非常勤役員などは、要件を満たさない場合があります。
今回のご相談でも、新たに就任する役員の中に県外在住の非常勤役員がいました。
ただし、この役員を経営業務管理責任者とする予定ではなかったため、Aさんの常勤性や経営経験を中心に確認することになりました。
なお、県外在住であることだけで非常勤と判断されるわけではありません。実際の勤務状況などを踏まえた確認が必要です。
③ 5年以上の経験以外にも認められる場合がある
現在の建設業許可制度では、一定の要件を満たす常勤役員等について、5年以上の経営業務管理責任者としての経験以外の経歴によって認められる場合もあります。
また、常勤役員等と、その役員を直接補佐する者による経営管理体制が認められる制度もあります。
したがって、5年間の取締役経験がないからといって、直ちに建設業許可の維持を諦める必要はありません。
会社の役員構成やこれまでの経歴によって判断が異なりますので、専門家に相談することをお勧めします。
5.経営業務管理責任者が1日でも不在になったらどうなる?
経営業務管理責任者の変更で、特に注意しなければならないのが、後任者への引継ぎのタイミングです。
例えば、次のようなケースを考えてみます。
- 5月31日:経営業務管理責任者である代表取締役が死亡
- 6月1日:新しい取締役が就任
- 6月1日:その取締役を経営業務管理責任者として届け出る予定
この場合、5月31日の時点で経営業務管理責任者の要件を満たす者がいなければ、許可要件を欠く状態が生じることになります。
翌日に新しい役員を就任させたからといって、要件を欠いていた事実が当然に解消されるわけではありません。
なお、経営業務管理責任者が不在になった瞬間に、建設業許可が自動的に失効するという表現は正確ではありません。
しかし、許可要件を欠いた場合には許可取消しの対象となるため、非常に重大な問題です。
そのため、経営業務管理責任者が高齢の場合や、退職する可能性がある場合には、事前に後任候補者を確保しておくことが重要です。
6.代表取締役が死亡した場合に必要となるその他の手続き
今回のご相談では、経営業務管理責任者の変更以外にも、複数の手続きが必要でした。
① 代表取締役・取締役の変更登記
代表取締役が死亡した場合には、法務局で必要な役員変更登記を行います。
今回のケースでは、次の登記が必要となりました。
- 死亡した代表取締役の退任登記
- Aさんの代表取締役就任登記
- 新たな取締役2名の就任登記
役員の死亡による変更登記についても、原則として変更から2週間以内に申請する必要があります。
新しい代表取締役の選定方法や必要書類は、会社の定款や機関設計などによって異なります。
② 建設業許可の役員変更届
役員変更登記とあわせて、建設業許可に関する役員変更届も必要になります。
今回のケースでは、亡くなった代表取締役の退任、新代表取締役の就任、新任取締役2名の就任について届出を行います。
なお、役員の変更に関する届出期限は、経営業務管理責任者の変更届とは異なり、原則として30日以内です。
そのため、変更内容ごとに期限を確認することが大切です。
③ 株主の変更届
建設業許可では、一定の株主についても届出が必要になる場合があります。
具体的には、株式会社の総株主の議決権の100分の5以上を有する株主などが、届出の対象となります。
代表取締役が死亡した場合、その方が会社の株式を保有していることも少なくありません。
相続によって株式の所有者が変わり、新たに届出対象となる株主が生じた場合には、変更届が必要になることがあります。
ただし、相続が発生しただけで直ちに株主が確定するとは限らないため、遺産分割や株式の承継状況などを確認する必要があります。
④ 産業廃棄物収集運搬業の変更届
今回の建設会社様は、建設業許可のほかに産業廃棄物収集運搬業の許可も保有していました。
そのため、産業廃棄物収集運搬業についても役員変更などの届出が必要になります。
産業廃棄物収集運搬業では、法人の役員変更などについて、原則として変更の日から30日以内に届出が必要です。
ただし、届出内容や自治体によって必要書類などが異なるため、許可を受けている自治体ごとに確認する必要があります。
複数の都道府県で産業廃棄物収集運搬業の許可を取得している場合には、それぞれの許可行政庁に対して手続きが必要になることがあります。
7.後任者がいない場合は廃業届が必要になることも
経営業務管理責任者が死亡し、会社に要件を満たす後任者がいない場合には、建設業許可を維持することが難しくなります。
このような場合には、許可行政庁への届出や廃業届の提出など、必要な対応を検討することになります。
なお、経営業務管理責任者がいなくなったからといって、会社自体を廃業しなければならないわけではありません。
建設業許可の廃業届は、会社の解散や事業全体の廃止とは異なる手続きです。
建設業許可がなくても工事を請け負うことはできる?
建設業許可がなくなった場合でも、建設業法上の軽微な建設工事については、原則として許可を受けずに請け負うことができます。
例えば、建築一式工事以外の工事では、原則として1件の請負代金が500万円未満(税込)の工事が軽微な建設工事に該当します。
ただし、建築一式工事では別の基準が設けられています。
また、電気工事業など、建設業許可とは別の法令による登録や届出が必要な業務もあるため、注意が必要です。
将来、経営業務管理責任者の要件を満たす人材を確保できた場合には、改めて建設業許可の新規申請を検討することになります。
8.許可要件を満たさないまま営業を続けることのリスク
経営業務管理責任者が不在となり、許可要件を欠いた場合には、建設業許可の取消しの対象となります。
ここで注意したいのは、許可要件を欠いたことによる取消しと、不正行為などを理由とする取消しでは、その後の取扱いが異なるという点です。
例えば、許可要件を満たさなくなったことを理由に取り消された場合、すべてのケースで一律に5年間、新たな建設業許可を取得できなくなるわけではありません。
一方、不正の手段による許可取得や一定の法令違反などによって取消処分を受けた場合には、欠格要件に該当し、一定期間許可を受けられなくなることがあります。
また、許可が取り消された後に、許可が必要な規模の建設工事を無許可で請け負うと、建設業法違反として刑事罰の対象になる可能性があります。
このような問題を避けるためにも、経営業務管理責任者が死亡・退職した場合には、速やかに許可行政庁や専門家へ相談することが大切です。
9.経営業務管理責任者の突然の死亡に備えておくことが大切
建設業許可を取得している会社では、経営業務管理責任者が一人しかいないことも珍しくありません。
特に、代表取締役が経営業務管理責任者を兼ねている会社では、その方が突然亡くなったり、病気などで常勤できなくなったりすると、建設業許可の維持に大きな影響が出る可能性があります。
そのため、次のような会社では、早めに対策を検討することをお勧めします。
- 代表取締役が高齢である
- 経営業務管理責任者になれる役員が一人しかいない
- 後継者がまだ決まっていない
- 家族経営で役員の人数が少ない
- 役員の退職や事業承継を予定している
例えば、後継者となる方を早い段階で取締役に就任させ、必要な経営経験を積んでもらうことも対策の一つです。
ただし、役員に就任すれば必ず経営経験として認められるわけではありませんので、経験の内容や証明方法も含めて検討する必要があります。
建設業許可は、取得することだけでなく、取得後も要件を維持することが非常に重要です。
10.まとめ|経営業務管理責任者が死亡したら早急に対応しましょう
経営業務管理責任者が死亡した場合、まず確認すべきことは、後任となる方が必要な要件を満たしているかどうかです。
後任者がいる場合には、必要な変更届を提出することで、建設業許可を継続できる可能性があります。
一方、後任者がいない場合には、許可要件を欠くことになり、建設業許可の維持が難しくなる可能性があります。
今回ご相談いただいた建設会社様の場合には、幸いにも15年間の取締役経験があるAさんがいたため、後任者としての要件を確認したうえで、必要な手続きを進めることができました。
また、代表取締役の死亡に伴って、建設業許可だけでなく、会社の役員変更登記や産業廃棄物収集運搬業の変更届など、複数の手続きが必要となりました。
このように、建設会社の代表取締役が亡くなった場合には、さまざまな手続きを並行して進めなければならないことがあります。
建設業許可の変更手続きはトラスト行政書士事務所へご相談ください
トラスト行政書士事務所では、建設業許可の新規申請だけでなく、経営業務管理責任者の変更、役員変更、業種追加、更新など、建設業許可に関するさまざまな手続きをサポートしております。
また、司法書士法人を併設しているため、建設業許可の変更届と会社の役員変更登記を連携して進めることが可能です。
さらに、産業廃棄物収集運搬業の許可に関する変更手続きについてもご相談いただけます。
「経営業務管理責任者が突然亡くなってしまった」
「後任の役員が経営業務管理責任者になれるか確認したい」
「代表取締役の変更登記と建設業許可の変更届をまとめて依頼したい」
このようなお悩みがございましたら、ぜひ一度、トラスト行政書士事務所へご相談ください。
建設業許可を維持できるよう、会社の状況に応じた手続きをご案内いたします.




